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 孝成が死んだ。今年最初の台風がやってきた夜の国道孝成が死んだ。今年最初の台風がやってきた夜の国道で、横転したトレーラーに突っ込まれて、死んだ。
 都会でも田舎でもないこの中途半端な街の近郊。俺は事故の一報を聞いて、現場に駆けつけた。そこに友の遺骸があることなど、予想だにしなかった。ただ、そうすることが俺の仕事だった。
 翌日、地元紙の社会面の真ん中に、ポツンと掲載されたその記事を書いたのは俺だ。
 事故から一日半が経過して勤務の明けたその足で、俺は孝成の自宅へ向かった。
 孝成の自宅は県中部の中核市の、その郊外にある。そこは、俺たちの青春を支えた場所の一つだった。
 二年ぶりに足を踏み入れた離れは、何も変わってはいなかった。かつて孝成の妹が使っていたのだというアップライト・ピアノ。傷だらけのドラムセット。孝成のベース。乱雑に置かれた数台の譜面台。
 福井がいて、相楽がいて、俺がいる。
 ただ、孝成だけがいなかった。

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